歩きに関する考察
- 先ほど申し上げておいた歩き方に関する僕の考えを述べる事にしましょう。これは僕個人のロルファーとしての理解や経験の産物ですので、ロルフィングとして共通の歩きに関する考えではない事を申し上げておきます。他のロルファーと考えが違うかもしれない事、より良い考えに至れば自分の考えも変わる事はご了承下さい。
- 立つ事に関しては先ほどもわりと詳しく述べました。歩き方も、自分の体重(重力)が負担なく無駄なく地面に乗っている事、体重が足の裏に滞りなく降りていて、しかも足の裏全体に満遍なく広がっている状態云々と言う、先ほど述べた立ち方が土台になります。そして、からだの使い方次第でからだを壊さないだけでなく、身体が整う様になると言う事を考えています。
- 重さが降りる軸を地面に伸ばせば、両足の中間の縦のラインと左右の踵のすぐ前辺りを結ぶ横のラインが交差するあたりと言う事でした。歩く動作の中では、体重を左右の足に交互に移し変えるため、重さの移動は左右に移りながら前へ進んでいく事になります。上手く身体を整えるには、重さの軸ができるだけ左右にぶれないで、中心軸の延長上にある一点に降りる重さを進行方向(前方)へ一直線上を移動する(左右の足は平行線上を辿る)イメージで移行させます。
- 歩行中は体重を継続的に移動中にさせておけば、左右の足でそのつど全体重を支える必要はなく、左右の足は重さの移動方向を示す導き手であり、足の裏の感覚で地面に体重の移動を伝えるのです。言わば進行方向に倒れていく身体を、倒れまいとして一歩前に出す足の着地させ方によって、身体を支える代わりに倒れるのを先送りにするように体重を移動させてしまうことの繰り返しなのです。
- 倒れるといっても、身体を前傾するのでもなく、大急ぎで倒れまいと足を先に先に出すと言うのでもありません。そうではなく、スローモーションでも動きの(体重移動の)停止状態を作らず、体重が常に移動中である状態を保つだけです。左右の足幅は狭い方が身体を左右にブレさせないで、体重を中心に保ちやすいでしょう。
- 体重を滞りなく進行方向に移動させるには、足の裏の実感が重要です。足の裏のどこに重さが乗っているか、どういう経路で足の裏の重さが移動するか、それを上手くコントロールするのです。一般に良い歩き方とされる足裏の体重移動は、“踵から足の外側よりを通って、子指の付け根から親指の付け根へと移って親指の付け根で地面を押す。”と言われるのですが、これでは僕の考える歩き方はできません。上のように体重を移動したのでは、体重がいちいち外にかかり過ぎて、左右の移動が大きすぎるか、脚部に偏った負荷がかかったり、関節のねじれによって偏りを肩代りしたりと言う様な事になりがちです。
- ただし僕の提唱する歩き方も、計測機で測定すれば、上のような重さの移動が測定されるでしょう。何故なら、土踏まずのおかげで足の内側は計測器に当たりにくいのです。偏平足ならどうか判りませんが、、、。では、体重は何処を通ればよいのかというと、真ん中です。踵から、足の中心を通って足の第2指と3指の間(その人の足の形にもよりますが)を通り抜ける感じです。内側にある構造が外側にある構造の上に重なっている具合により、足にかかる体重を上手く分散し、ショックを吸収できるようなアーチを形成しています。歩行時には足の正中のライン上を体重が移動し、内側は土踏まずの下の空気を踏んづけている感じです。足の中で個々の骨に十分な適応性と弾力が在ることが前提になります。この足の真ん中のラインが進行方向に向かって真っ直ぐである事も必要で、足の指が外向きになっていては、(多くの人は足を外に向けているか、逆にうちに向けているかで、真っ直ぐな人は意外に少ない)体重が外へ向かって移動しながら、足の裏の正中を通らず外から内へ横切る形で体重を進行方向に移動させる様になってしまいます。
- ここでもうひとつ大事な要因は、時間差と言う事です。踵からつま先にかけて、わずかな時間差で着地していく事で、体重移動の方向性が前方へと示されます。これがつま先から踵にかけての順番で着地したのでは、足に乗る体重が逆行して進行方向のベクトルとぶつかりあってしまいます。勢いや気配を消して抜き足差し足で歩くには良いかもしれませんが、単純に歩きの効率を考えた場合は、前に出る足で、重さをさらに前方へ伝える様な時間差がついているだけで、身体は前進します。
- 僕が考える歩行の原動力は、自分自身の体重です。足の裏の伝え具合で、体重を乗せるだけで身体は前に進んでいくのです。自分の体重を原動力にしようと思うと、前足の移動に上体が速やかに付いてこなければなりません。上体が後ろ足に寄っている場合は、後ろ足に体重が残り、前に進む為には地面を蹴り出さざるを得なくなるからです。上体が前足に近いか、後ろ足に近いかは歩行のタイミングの問題です。前足重心で体重移動して歩く人はほとんどいないので、ほとんどの人は後ろ足で地面を蹴って歩いています。後ろ足で地面を押して歩くのが悪いといっているのではありません。ただ、後ろ足の蹴り方の癖で、足や膝の向きがねじれていて、そのためにいくら手技を施そうとも元の歪みを取り戻してしまうのを嫌と言うほど見てきました。ですから、そうならないための、身体がより整う歩き方(それは必然的に効率の良い歩き方でもあるのですが)、を探求して提案しているのです。
- 足の裏だけではなく股関節、膝、足首にも注意を要します。身体の移動の方向付けは、足の裏と申しましたが、それ以前の、脚の動きの方向付けは膝でします。これは先ほどの、後ろ足に体重が残っていないと言う所から始まります。前足の方に体重が移ってしまった後では、後ろ足で地面を蹴る必要はなく、後ろ脚は膝から真っ直ぐ前に曲げて来ます。膝を曲げる際には後ろ足に体重は残っていないながらも、足を長めに地面に残しておくのです。少し脚自体の重さの溜め(位置エネルギー)を作っておいてから、膝の力を抜くようにブラッと、カクンと曲げています。股関節を軸に膝がブランコのような弧を描くイメージです。
- 膝関節の構造上、膝は屈伸する以外は動ける度合いが極めて少ないのです。必要以上にねじれたり横に曲がったりしないように、靭帯で止められています。膝を真っ直ぐに出す事で、非常に可動域の広い股関節の動きをコントロールしているのです。脚に余分な力が入っていないほど、膝を真っ直ぐにコントロールしやすくなります。
膝が足を真っ直ぐに導いてきますが、足は膝によって地面からペラッと剥がされる様にすると足首の動きが柔らかく、次の着地のときに足や脛のクッションが上手く働きます(足はアーチで、脛は2本の骨の間で、ショックを吸収しながら力を分散しています)。
- 足首の関節は、膝よりは可動域が広いとはいえ背屈、底屈(真っ直ぐな方向への足首の曲げ伸ばし)以外の動きは、異なる地表面への適応や異なる角度にかかる力への適応、そして動きの舵取りのためであり、ここで提案している歩き方に於いては、着地時に移動方向を示唆する事と、離陸時には真っ直ぐに進む動作をサポートします。後ろ足で地面を押して歩く歩き方だと、押し方に偏った癖があれば、この地点で膝の軌跡は真っ直ぐな弧を描かず、ブレを生じてしまいます。股関節は膝がぶら下がった状態でスウィングするための軸であり、骨盤に対して自由に屈伸(前後の回旋)できなければなりません。股関節が緊張していると、脚が骨盤を引き連れて動かしてしまうか、腰で脚を振り回してしまうため、おしりが水平面を縦軸に沿って回旋するような動きになります。これでは体重の伝達具合が随分変わってしまいます。股関節が自由である事、つまり脚は骨盤を引っ張らず、骨盤も脚を引きずらずに動くのです。すると、骨盤は脚の位置と重さのかかり具合から、小さな動きですが、左右で逆の前後回旋運動をします。脚の動きと関連がありながらも骨盤として独自の動きをするのです。
- 骨盤の動きに伴って左右の腸骨に挟まれている仙骨は、いくつかの軸に沿った動きの合成の動きをします。仙骨の動きは背骨に伝わり、背骨の回旋、屈曲、伸展、側屈を起こします。仙骨が自由で、個々の椎骨に弾力と適応性があり、しかも胸郭(肋骨)が柔軟性に富んでいれば、上体の重さは滞らずに股関節の所まで通り抜けるし、さらに脚を経て足の裏まで漏れなく体重は地面に降り、地面からの支えは脚を経て、骨盤から背骨を伝い頭のてっぺんまで通り抜けます。歩いている中に天に向かって伸びる動きと、地に向かって降りる動きの両方が同時に表されるのです。
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